谷地鬼剣舞「狐剣舞」@2020鬼の館芸能公演
さて本日は、2020年10月4日に行なわれた鬼の館芸能公演から谷地鬼剣舞で狐剣舞です。
出掛かりの部分から太鼓が神楽調子で、荘厳かつ妖気漂う感じがします。
演目の狐剣舞は滑田系にのみ伝承されている演目で、なぜか岩崎系にはありません。
この狐剣舞には伝説があるそうです。澤田定三著「岩手の郷土芸能」から抜粋します。
伝説とは、この剣舞の掟として、踊り初めの笠揃いと踊り納めの二回は、土地の稲荷神社に奉納参拝することになっていた。ある年の踊り納めの時のこと、その日は朝からどんよりと曇った秋錆びた日で、夕方からみぞれ混じりの小雨さえ降りだした寒い日であった。
稲荷様に供えたお神酒を供物の肴で、直会の祝い酒を酌み、やがて礼舞の庭造りに入るや、一人の踊り子が俄に腹痛を訴えたので、社殿の傍らに休ませ、一人欠員の七人で踊りが継続された。
暮れ早き晩秋で暗い境内の中は二つ三つの提灯のみで、辛うじて踊りが見られると言う程度の明るさである。
踊りも半ばを過ぎた頃、太鼓打ちがふと見ると、定員の八人になって踊っているではないか。腹が痛いといった者がよくなって踊っているものと思いながら気にも留めずにみていると不思議にも一番後方の一人がどうもおかしい。面が全く見えない。それに足が飛んだり、もつれたり、前のめりになったりして体の中心がとれない。腰の落ち着きもない。
やがて踊りが終わって全員片膝つきの礼の頭を下げ、立ち上がった人員はやっぱり七人であった。
社殿に蹲っていた踊り子はずっと横になっていたということだ。
それから一同がそのことを話し合って慄然とした。師匠はおもむろにこれはきっと稲荷様の恵みであるといった。
稲荷明神が使いの狐の化身としてつかわし、恒例の納の参拝に一人の欠員があってはならぬとして踊らせたのであろう。
そういう訳で、稲荷様の加護の神秘的なものに感激した剣舞の連中は、この恵みを象徴して一つの踊型を仕組んだのが、この狐剣舞であるという伝説である。
この演目は最後の稽古ものとされているそうである。最後の奥許しということです。
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