小田代神楽「苧環」@2020奥州市郷土芸能の祭典
さて本日は、奥州市郷土芸能の祭典から大トリです。小田代神楽で苧環です。
その前に、小田代神楽さんの由来について定本より。
「明治二八年一○月、部落の氏神五十瀬神社に神楽を奉納するため、氏子総代の植田喜作が庭元となり、羽田の鴬沢神楽から師匠を招き指導を受け、小田代神楽を創設した。
初代庭元植田喜作、二代及川春治、三代及川清志四郎、四代~五代及川篤男である。」
とあります。初代の植田喜作が指導を受けたのは菅原金之丞とあるが、金之丞は千葉栄佐衛門とともに瀬台野神楽を立ち上げた人物であり、後年田原の蟹沢に婿入りして蟹沢神楽を創設し、周辺の地域にも神楽指導をした。
そして現在の第六代目庭元は及川章さんです。
さて、苧環です。
小田代神楽さんは瀬台野系の南部神楽なので、瀬台野神楽の神楽本には小田巻姫として演目がのっていますが、現在瀬台野系でこれを演じている団体はありません。
幕だし歌は 〽 センヤー 苧環
山伏神楽の苧環について森口多里は岩手の民俗芸能山伏神楽編において、神楽能の男女執念物のひとつとしている。
男女執念物とは男女の愛情から燃え立った執念(P96)と定義づけ、その部類に当たる演目として「鐘巻」「蕨折」「橋かけ」「苧環」「機織」があり、大償神楽では「年寿」「潮汲み」「天女」「木曽」もこれにあたるとしている。
この内、小田代神楽さんでは既に鐘巻の復演をしているので、苧環はその第2弾といえるものです。
苧環の演目の内容は、夜な夜な若い娘に見目よき男が通い来て、ともに夫婦の契を交わし娘が身ごもったのを不審に思った姥が知恵を授けて相手の本性を確かめよと諭します。娘が見た男の正体とはという物語で、森口多里は三輪大神の神話とも通じる舞曲としています。
姥が授けた知恵で娘は男の裾に苧環の糸針を縫い付けて、その糸を頼りに探し出すということで、舞手は苧環(糸巻)を採り物として持っています。
扇の舞が終わると、姫が幕前に立ち苧環の由来を説きます。
〽 おう自らは大和国南郡某の息女なり この度見目よき美男何国よりか渡らせ給うによって、夫婦の契りを込め即ち懐胎となり、七月のいわみを受け給うに 今宵も渡らせ給うと聞き及び、是迄出し候やのう
そこへ姫の乳母が出て問いかけます
〽 おう自らは摂州住吉の者にて候 小田巻姫を幼少より七歳まで育てし姥にて候
この度の小田巻姫懐胎の由を聞き及び両親を嘆かせ給うによりて、是迄来たり候やのう
姥が授けた知恵とは、入り口に麻の麻柄を敷き詰めて置き、音も無く入ってくれば物の怪の仕業、苧環の麻の糸を帰る若者の衣の裾に縫い付けて離すべし。さすれば糸を辿れば正体が判るということでした。
姫の話を聞いた姥が男を怪しんで知恵を授けて下がると、若者が出て姫と仲睦まじく舞い踊ります
若者が帰った後を糸を頼りに付けていくとそこにはあさましき大蛇の姿がありました
と、ここで幕内から巨大な大蛇の尾が出現。会長さんによると某町民劇場で使用した大蛇を貰い受けたので使ってみたということでしたが、この後この大蛇は何に使うのでしょうか。あれでしょうか・・・
閑話休題
胴取 〽 おう汝それは愚かなり 黒子は黒金を煎じ 赤子は赤金を煎じて呑むと直に瀧の如く下るなり
その後三年過ぎたる大根を煎じて呑むと人間に障りなし あさましき大蛇かな
姫 〽 おう有難や姥が仰せによりて一命助かる事神辺稀代なり、これより寄り添うて千代の御神楽を舞遊び給えやのう
めでたく物の怪退散が成就したところで崩し舞にて舞納めます。
ところで蛇足になりますが、南部神楽の姫舞でかかる神楽歌に
〽 センヤー しずしず しずの小田巻 はぁー ヨヨサーヨヨサー
というのがありますが、長唄「賤の苧環」では源頼朝の前に引き出された静御前が無理に請われて一舞する場面があり、
〽 しづやしづ しづのをだまき くり返し 昔を今に なすよしもがな
と歌いながら舞うというものです。
南部神楽でもこれを取り入れたかは不明ですが、源平物の盛んな南部神楽に相応しい掛け唄といえます。
動画でどうぞ
