神楽伝承本について考えるvol.1 達古袋神楽
古今東西の芸能、神祇であると民間であるとを問わず、その芸態を伝授するために何らかの所伝をもって伝えてきた。
しかしながら、わけても神楽の場合は神聖な祈祷舞を根本に持っているため、資格の無いものや他所の者には明かさないということが通例であったため、芸能を伝える詳細な書物は多くは残ってはいない。
とはいえ、特に幕末以降はそのことを伝えるべく努力した後が伝承本に表れている。
基本的な舞い方や詞章は伝本に記しながら、肝心の部分は「ロイ」すなわち口伝として記し残している。
こういった状況の延長線上に南部神楽の伝承本の形態がある。
南部神楽は、文化文政~弘化年間に民間に移譲が進んだ芸能で、その頃の祈祷神楽の演目と明治以降に娯楽演目として発達したものとが混在し、その後の評価が分かれる元となった。
ところが、明治以降に伝わる神楽本を見ると、幕末以前の神楽の姿を留める演目などが記述されており、このことから南部神楽のルーツを探ることも可能であると推察されます。
ということで、まずは達古袋神楽の神楽本です。
これは一関市図書館などで閲覧することができます。
題名は「風流御神楽詠儀本」です。
この本は、もともとあったものを平成4年に達古袋神楽の阿部孝氏が現代文に翻刻したものです。
その内容は、神楽演目ばかりでなく神舞の手次が記されてある等貴重な資料となっています。
演目を列挙すると
三番叟
岩戸入り
岩戸開き
岩長化身の舞
魔王退治
瓊々杵命
彦炎出見尊
八岐大蛇退治
羽衣
田村一代
田村二代
田村三代
安倍保名
屋島合戦
一の谷
日光権現
五條の橋
鞍馬山合戦
宝剣納め
喜一法眼
三熊大人
山神舞
八幡舞
明神舞
五代龍
老松若松
西の宮太神由来
となっています。
ところが、もう一つこの伝承本には神楽の所作が書かれています。南部神楽では手ゴト等と呼ぶ手次のことです。
この本には山の神舞、八幡舞、明神舞の手次が書かれています。
山の神舞を読み解くと
一二 山の神
三 幕いん
四 東方蓮花
五 鶴のサギ足
六 五行フミ
七 米を取れ
八 米を播け
九 島廻り
十 立って ナニトタダ
十一 六三
十二 扇でデンチク
十三 扇を逆にデンチク
十四 腰より刀を取る トトトトセ
十五 刀を抜く この太刀は
十六 刀で デンチク
十七 刀を逆に デンチク
十八 終わって演芸
十九 雲空で立つ みこ足 東西に廻る
二十 雲空鉾にて南北
二一 鉾にて デンチクに廻る
山伏神楽由来のものと思われる手次の呼称が並びますが、鶴のサギ足や雲空は?です。
現在の大森神楽などの山の神舞からこれらの所作は大体想像できますが、十八の演芸というのは「詠儀」のことで、ここで山の神の本地を説く詞章を述べることだと思います。
できうることならば達古袋神楽の山の神舞が見たいと願うものです。
いずれ、伝承本が残っているということは現在の神楽につながるものがあるはず。
そういったものをこれからも発掘していこうと思う。
